研究概要 |
本研究は,与えられた論理関数を計算する最小の論理回路のサイズに対する下界を導出することのできる,汎用的な手法の開発を目的とするものである.本研究では特に,様々な論理関数に対して,その近似的な計算と厳密な計算に要するコストの差の解析と,このような差が生ずる原因の組み合わせ論的特徴付けを通じて,各関数に内在する本質的複雑さを捉え,強力な下界が導出可能であるような新たな手法の確立を目指す.本年度の研究において得られた主な結果は以下のとおりである. 1.あらかじめソートされた二組の数列を,一組のソート済み数列に併合する,いわゆるマージングの問題について,これを比較交換器回路により計算する場合に必要な素子数を厳密に評価する手法を与えた.また,この手法を用いることにより,Batcherの奇数偶数法と呼ばれる古くから知られる構成法が,任意の入力長に対して真に最適なマージング回路を与えるか否かという有名な未解決問題に対して,二組の入力系列のうち一方の長さが高々4である場合には真であることを示し,部分的に解決した. 2.クリーク関数と呼ばれる,厳密な計算が困難であることが強く,示唆されている論理関数に対して,単調論理回路,あるいは,否定素子数限定論理回路を用いた場合には,これを近似的に計算することすら困難であることを証明した.この結果を得るため,従来は,単調論理回路モデルにおける計算量の下界導出のみに適用可能であった近似法と呼ばれる手法を一般化し,さらに,否定素子数限定論理回路モデルに対しても適用可能となるよう拡張した手法を開発した.
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