研究概要 |
ネットワーク制御を行うMiddleboxにおいて、トラヒックエンジニアリングを対象とした場合の要求機能として、動的経路制御のための経路表更新とトラヒックの転送状況計測がある。今年度は、機能実装に先立ち、トラヒックエンジニアリングの性能解析と、ネットワーク特性計測における可用帯域推定手法の提案・評価を行った。 1.MPLSネットワークにおけるトラヒックエンジニアリングの性能解析 トラヒックエンジニアリングの目的は、i.ユーザの要求サービス品質(Quality of Service,QoS)の提供、ii.ネットワーク資源の有効利用、に大別される。これらの目的を達成するために、MPLSネットワークにおいて複数のIngress(入力)LSRと1 Egress(出力)LSRで構成されるネトワークを古典的なM/M/n/n待ち行列システムを応用してモデル化し、i.ii.両方を満たすトラヒックエンジニアリングの性能評価のための理論解析を行った。数値結果より、各入力LSRへの注入トラヒック量に極端に偏りがある場合、その量が少ない入力LSRに収容されるユーザ性能の劣化を招くが、均一、もしくは軽微に不均一である場合は、全ユーザの性能向上が可能であることを示した。なお、ii.の資源有効利用に関しては、常にその効果が得られることを明らかにした。 2.パケットトレインを利用したEnd-to-End可用帯域推定方式の提案と性能評価 トラヒックエンジニアリングを行うためには、ネットワークを構成するルータ/リンク利用率や転送トラヒック量を計測し、各ユーザに提供されるQoSや利用可能帯域を精確に推定する必要がある。このネットワーク特性計測・推定技術は、i.Active Measurement、ii.Passive Measurementに大別される。i.は、ユーザがトラヒック転送時にプローブパケットを注入して、その被る転送遅延や損失からネットワークの各種状態を統計的に推定する方式である。この方式では、注入プローブパケット量が少ないと統計誤差が大きくなり、多すぎるとネットワークの状態を撹乱して、所望の特性を得ることができない。しかし、あるEnd-to-Endパスの利用可能帯域(可用帯域)を推定するためには、一般的にi.の方式が望ましく、プローブパケットの注入方式に間欠的ではなく連続して転送するパケットトレイン方式を採用したいくつかの推定手法が提案されている。しかし、各方式における計測時間の高速性やプローブ転送負荷量の比較は不十分で、実装容易性を考慮してはいない。そこで、パケットトレイン方式を適用した可用帯域推定方式を提案し、トレイン内パケット転送遅延の増加特性を直接利用することで、計測対象パスにルータが一つしかない簡易なネットワーク下で、迅速かつ低負荷で推定可能であることを示した。
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