手描きの線画では閉領域が完全に閉じられずに描かれていることがあり、自動彩色システムでは、その結果として塗りつぶし領域の決定を誤り本来塗りつぶすべきでない領域まで色が溢れることがある。しかしながら、すべての線を完全に結んでしまうことをシステムが強制するのは絵の表現手法を狭めてしまうことになる。そこで本研究では不完全な閉領域を構成する線群の途切れた部分について、線を補完する手法を研究している。本年度行った実装実験における処理の枠組は次のとおりである。 前処理として、与えられた線画において、線の各点における接線方向を主成分分析により求めておく。次に線上でないの各点毎に次の処理を行う。注目点(a)とそこからある範囲にある線上の点(b)の位置、および点(b)の接線方向を用い、点(a)と点(b)が同一円弧上にあるとする時の(a)の接線方向を計算する。点(b)は複数あるので接線方向の計算も複数回行う。得られた接線方向の分布に大きな集中が見られる時、点(a)が周囲の線の延長線上にある確からしさが高いものとする。この確からしさを画像上の各点において計算し、画像上に延長線の存在の可能性を表す場を形成する。作られた場に対して、稜線を検出する手法を適用することにより、描かれずに途切れた線を計算することを可能とする。 今年度特に注力した部分は上記処理のうち、接線方向の分布の集中度合の計算方法である。接線方向は0から180度までの値しか持たないが、注目点に対してどちらの方向の点から延長した線の接線方向であるかを加味し、2π分の値を持つ接線方向の分布を得た。その結果、一方向からのみの影響による分布と二方向から影響による分布との違いを検出することができ、補完の精度の向上が見られた。 また、入力画像にもともと描かれていた線および新たに補完された線からの距離によって濃淡を付けた画像の生成法についても実験検討を行った。
|