研究概要 |
本研究は,視覚目標運動の臨界周波数において観測された手の間欠的な運動から連続的な運動に切り替り,かつ,視覚目標との位相差がほぼゼロの状態から先行位相へと変化した結果に着目し,視覚目標手動追従運動における臨界周波数での制御様式の変化のメカニズムを明らかにすることを目的とする.本年度の成果は以下の通りである. 1.眼球運動について固定条件と追従条件の2条件の下で,2次元目標追従手動運動実験を行った.その結果,楕円運動する視覚目標の運動中心に注視点を設ける固定条件では,被験者の手動運動は目標運動を先行する.視覚目標を眼球運動でも追従する条件では,被験者の手動運動は目標運動を位相差ゼロで追従する,もしくは,遅れることが明らかになった. 2.追従運動に重要な位置誤差フィードバック項と視覚目標速度フィードフォワード項からなる手動運動モデルの解析,数値実験を行った.その結果,中間ターゲット周波数領域で,モデルの唯一の可変パラメータについて,ロバストに先行制御(運動系を先行させ環境変化が生じる過渡誤差を最小にする制御様式)を再現できること,一方,低周波領域では,手動運動モデルでの先行制御の再現は困難であることを明らかにした. 3.上記モデルに非線形項を加えて導出した位相モデルの解析,数値実験を行った.その結果,臨海ターゲット周波数においてHopf分岐が生じ,臨界周波数より低周波領域では位相不安定性が現れることを明らかにした.さらに,Hopf分岐による位相不安定性により平均位相差は定常位相差の解析値より低くなること,低周波領域での位相揺らぎが実験で観測された揺らぎと同様の特性を持つことを示した. 以上の結果から,実験で観測された臨界周波数での制御様式の変化のメカニズムとして,先行制御のHopf分岐によるモード遷移,予測フィードバック制御から先行制御への様式の切り替えの2つの可能性が示された.
|