半導体デバイス・プロセス技術の進展につれて演算装置も目覚しく進歩しているにもかかわらず、生命体の脳で行われている演算処理が実行できるコンピュータの実現には未だ距離がある。一方、真社会性昆虫の蟻は、個体では単純な規則に従って行動しているにもかかわらず、それがコロニー化することで、高度に組織化されることが知られている。その代表的なものが、次に示す餌を採取するモデルである。即ち、探索中に偶然、餌場を最初に発見した蟻個体は、餌場から巣へ餌を持ち帰る際にフェロモンを分泌する。他の蟻はそのフェロモンを感知し、それに誘引される形で餌場に辿り着き、その帰り道に同様にフェロモンを排出する。このように蟻はコロニーとして行動することにより、正帰還型の高度な餌収集能力を発揮する。これはまさに各エージェントによる間接的相互作用を有する並列演算処理といえよう。 本研究では、この蟻コロニーの餌採取モデルを組み合わせ問題の代表である巡回セールスマン問題に適用すべく、4×4マスの平面上を想定し、原点を出発して3点を通り、原点に戻る際の最短ルートを導くLSIの実現を試みた。 構築したアルゴリズムを基に、詳細な動作モデルをハードウェア記述言語(HDL)により記述し、HDLシミュレーションにより所望の動作を確認した。これにより、群知能型情報処理用LSIを構築に見通しを得た。設計におけるデザインルールは0.35μm、チップサイズは4.9mm角、クロック周波数は10MHz、および論理回路セル数は約10000である。 さらに試作したLSIチップのLSIテスター測定より、試作LSIチップが所望の群知能性を発揮することを実証し、初めて群知能型情報処理LSI実現の可能性を示した。
|