本研究では衣服が人体に与える圧力すなわち衣服圧に着目し、衣服圧が人体に加わった場合の生理的変化をシミュレート可能なモデルを構築することが目的である。 本年度に行なった研究によって以下の知見を得た。 1.パーティクルシステムによる圧力分布の推定 衣服圧の人体への影響をシミュレートする場合、衣服圧の推定は必須である。そこで本研究ではパーティクルシステムを用いて動的な衣服圧推定のアルゴリズムを考案した。ただし、本年度の研究では人体を剛体としている。つまり、マネキン等に衣服を着せた場合の衣服圧ということになる。アルゴリズムでは、まず衣服をパーティクルにより離散近似し、人体を三角形ポリゴンで近似した。そして各パーティクルの運動方程式を解き、人体を表わす三角形ポリゴンに加わる力を計算することで人体に掛かる衣服圧の推定を行なった。シミュレーションの検証を行なうためにシミュレーション結果と実際の実験結果を比較した結果、ほぼ同様の分布をしておりシミュレーションの妥当性が示唆された。 2.弾性人体モデルの構築 上記1でも述べたが本年度の研究では、人体を剛体として衣服圧推定を行なった。しかし実用化を考慮した場合、人体は剛体ではなく弾性体である必要がある。そこで、本年度は人体の中で特に衣服圧の影響が大きいと考えられる成人女性の胸部に着目し、弾性体モデルを構築した。モデルの構築ではまずVisible Humanプロジェクトの女性断面画像から皮膚、皮下脂肪、筋肉・骨領域を推定し、それを元に皮膚部、皮下脂肪部、筋・骨格部の3層構造の弾性胸部モデルを作成した。各部のヤング率やポアソン比などの材料特性は硬度計を用いて測定した。今後は構築された弾性胸部モデルをさまざまな条件下でシミュレートし、実際の形状や挙動と比較検討することで、モデルの妥当性を検証する予定である。
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