H16年度は、昨年行った予備実験の結果をもとに実験計画を再考し、修正を加え、新たに本実験を行った。この実験の結果を9月の感性工学会大会で発表した。さらに昨年度行った、イメージ調査と合わせて総合的な考察を行いまとめたものを芸術工学会誌へ論文として投稿した。実験の主たる目的は、触覚的なテクスチャのイメージと視覚によるイメージの違いを引き起こす視覚的情報がどういったものであるのかを検討する事であった。実験とその結果の詳細を以下に記す。 実験では、布地の写真画像に異なる処理を施した2種類の視覚刺激と、実物の布地である触覚刺激との同定判断を行い、この判断に要する時間を計測し比較した。実験の結果から、2値化画像刺激とカラー画像刺激の正答と誤答の差の検定を行ったところ、統計的に有意な差は見られなかった。次に2値化画像刺激とカラー画像刺激で、同定判断に要した時間の差の検定を行ったところ有意差が見られた。さらに、2種類の視覚刺激条件下で、布地タイプ1〜6の同定判断に要する時間がどのような影響を受けるかを調べるため、布地タイプごとに2要因の分散分析を行った。この結果、「柔らかさ」や「薄さ」の読み取れない2値化画像刺激の判断に要する時間は短く、誤答は多かった。よって、我々が布地素材について視覚情報と触覚情報をマッチングさせる際、「柔らかさ」や「薄さ」といった全体的なイメージの視覚情報は非常に大事な役割を果たしていることが示唆された。またカラー画像刺激では一見布地のタイプ同士が似ていても、「糸の太さ」、「織り」、「肌理」等々について時間をかけて観察することで、ある程度違いを区別できるが、2値化画像刺激ではカラー画像を2値化に変換した際、実物とは異なった情報が付加され、それが判断に強く影響する可能性が示唆された。
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