研究概要 |
研究代表者は,熱流体解析と,マルチエージェントモデルを基礎とした人間の行動予測モデルとを融合させた交通・商業空間(移動空間)における熱的快適性予測モデルの開発を行い,同モデルを実在の移動空間に適用した。 熱流体解析モデルとして標準k-ε(イプシロン)乱流モデルとSIMPLEアルゴリズムとを用いた解析モデルを使用し,行動予測モデル(動線予測モデル)としてHelbingによるマルチエージェントモデルを使用した.熱的快適性の指標としては温冷感や快適感を顕わに表示できるPredict mean vote(PMV),を使用した.これらの熱流体解析モデル,行動予測モデル,熱的快適性指標を統合することによって,滞在者の行動を考慮に入れた,移動空間における熱的快適性の予測モデルを開発することができた. また研究代表者は,上記熱的快適性予測モデルを用いて,従来オフィスビルで試みられてきたタスクアンビエント(TA)空調の適用範囲を交通・商業空間にも拡大することを試みた.TA空調はタスク域という滞在者のいる領域にのみ集中して空調を行う手法であり,快適性の維持と省エネルギー効果の両方が期待されている.この空調方式を移動空間に適用するためには,滞在者の動線を考慮しなくてはならず,上記熱的快適性予測モデルによる検討を行うことが必要である.同モデルを用いた検討は次のような手順で行った.(1)対象とする空間における滞在者の動線の予測,(2)予測された動線に基づくタスク域の設定,(3)タスク域に対応した空調設備の設定,(4)空調設備に対する室内熱環境予測、(5)PMVによる熱環境予測結果の評価.同予測モデルを実在の事務所ビルのラウンジ空間や地下鉄駅構内に適用した結果,これらの移動空間においても滞在者の熱的快適性を維持しつつ,省エネルギーを実現できる可能性が得られた.
|