研究概要 |
本年度の研究では,多様な社会的文脈が礼儀正しい適切な非言語的表出方略に及ぼす影響を検討し,発表を行った.従来,マンマシンインタラクションの分野ではコンピュータが人と同様に礼儀正しく振る舞うことが必要であると主張されてきたが,これまで扱われてきた礼儀正しさは,常に守られていることが望ましいある意味規範的な礼儀正しさと言える.一方,語用論の立場からBrown & Levinson(1987)礼儀正しさとは言葉遣いの丁寧さではなく,その言葉遣いの使用効果の点から考えるべきであるとしている.これに従えば,多様な社会的文脈に合わせて適切振舞うことこそが礼儀正しさと言える. そこで本年度の研究では社会的文脈を構成する上で重要であると考えられる社会的距離(D),行為の受け手の行為者に対する力(P),行為が相手にかける負荷(I)の3種類の社会的文脈を設定し,「上司の依頼で相手を待たせる」課題と「相手の荷物を持つと申し出る」課題を接遇技能の熟達者に演技させた.被験者の行動を解析した結果,3つの社会的文脈が非言語的表出方略に及ぼす影響はさまざまな表出チャネル間で類似していた.このことは複数の社会的要因の影響は,「礼儀正しい」非言語的表出方略を決定する1つの変数の高低に集約できることを示唆している.またこれとは別に,相手の非言語情報に自らの非言語情報を類似させる同調傾向とよばれる現象をとりあげ,この観点からも礼儀正しさついて検討を行った.対話場面を観察し,同調傾向が対話相手に対する態度を表出する方略となっていることを示した.
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