ほぼ計画通り、実験環境の整備と、両時間時間差(interaural time difference:ITD)を定位手がかりとしたときの腹話術効果(ある場所に提示された音源の位置が、異なる場所に提示された視覚刺激の位置にバイアスをうけて知覚される現象)の検討を進めた。実験機材については配分額との関係で一部機材に省略があったが、本課題を遂行するに十分な精度(特に視覚刺激の量子化ビット数と輝度測定において)を確保しながら、実験環境を構築することが出来た。 実験ではITDのついた正弦波(頭内の両耳を結ぶ線上に定位する)をヘッドフォンを通じて提示すると同時に、CRTモニタ上の水平方向の様々な位置に点光を提示して、点光の位置がITDによる音像定位に与える影響を検討した。ITDを定位手がかりとする場合、音像は頭内に定位する(手がかりが限定されているため)。従って、モニタ上の点光と頭内の音像の間には空間的近接性は認められないが、にも関わらず、モニタ上の点光の位置が頭内の音像を補足し、音像の位置は点光の方向に知覚された。このことは、空間上の位置ではなく、ITDなどの情報処理上の属性を媒介して、視覚が聴覚に影響を及ぼしていること、そして、このことを利用してより分析的に(情報処理上の属性と対応させながら)、メカニズムという観点から腹話術効果というもっとも基本的な視聴覚相互作用現象に切り込むことの出来る可能性を示している。平成15年度に得られたこのような基礎的知見を元に、腹話術効果をメカニズムという観点から論じる、あるいは腹話術効果を利用してITDや両耳間レベル差(interaural level difference:ILD)を実空間座標と対応づけるための検討(平成16年度計画)を進めていく。
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