分割表解析においてわれわれが遭遇する統計的推測の問題の多くは、集約的には、適当な統計量の仮説のもとでの条件付期待値の推定問題として定式化することができる。マルコフ連鎖・モンテカルロ法は、その数値的評価のためのアルゴリズムのひとつであり、特に、単純なモンテカルロ積分が実行できない(直接的なサンプリングが不可能)というケースを想定している。従来のこの分野の研究は、マルコフ連鎖・モンテカルロ法を実現するために必要な、状態空間上の既約なマルコフ連鎖を構成するための基底(マルコフ基底)を、代数アルゴリズムを用いて算出する方法が主流であった。しかしこの方法には問題点が多く、中でも、代数アルゴリズムめ理論的な計算量が、変数の数の2重指数オーダーであることに起因する計算時間の問題、および、変数間に項順序を与える必要があるために、変数間の対称性が崩れ、得られる基底が極小でない、という問題は深刻であった。 本研究では、従来法の問題点を踏まえ、代数アルゴリズムを用いずに、極小なマルコフ基底の導出方とその性質に関するいくつかの結果を得た。特に、3元分割表の無三因子交互作用仮説の検定問題に関しては、水準数が比較的小さい場合に関して、一意極小基底の具体形を導出した。また、応用上重要な、3元分割表の完全独立モデル、集団遺伝学で重要なHardy-Weinberg仮説、固定セルを含む分割表の解析問題、Bradley-Terryモデル、などに関しても、極小基底の具体形と、その一意性を調べた。さらに、理論的に重要な、極小基底が一意的に存在するための必要十分条件、および、水準の入れ替えに関する不変性を考慮した、不変極小基底とその一意性に関する結果などをまとめた。 本研究で得られた結果は、論文として報告するとともに、2003年12月にカリフォルニアで行われたワークショップ、Computational Algebraic Statisticsにおいて、報告した。
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