本研究では、平成15年度から2年間の予定で、文字の視覚認知とその神経解剖学的基盤との関連をより詳細に検討することを目的して、(1)健常人を対象とした機能的磁気共鳴画像による手法と、(2)脳損傷患者を対象とした症例研究を相互補完的に行うことを計画している。(1)については、予備的作業として、マスク・プライミング法を用いた、計5種類の異なる提示条件下での単語視覚認知実験を実施した。具体的には、意味判断課題におけるマスキングされた先行刺激単語による後続の標的単語の認知への反応時間に対する影響を測定した。特に、先行刺激と標的刺激との間の意味的関連性による被験者の運動遂行反応への影響においては有意な効果を確認できたほか、音韻表象の賦活の有無や、日本語における抽象文字列表象の存在などの点については現在も解析作業を続けている。今後、これらの研究項目について目下共同作業を行っている仏・国立衛生医学研究機関のグループと近日中に検討作業を行い、16年度に磁気共鳴画像実験へと応用する予定である。この実験データの一部は、平成16年4月に開催される失読症に関する英国との国際シンポジウムで発表の予定のほか、学術誌への論文投稿も行った。(2)については、(1)で用いた実験パラダイムを局在性脳損傷による言語障害症例の症状評価へ応用し、障害されている認知過程とその病変部位との対応関係をより厳密に検討する。15年度は上記のように予備実験による基礎的データの収集が中心となったが、今後は上記の結果に基づいて、脳損傷例に適用できる実験条件の詳細(反応記録機器の選択、課題の選択、刺激の提示時間、試行回数など)を選定し、臨床応用として後頭葉ないし側頭葉領域の局在性病変を有する症例を検索したうえで、協力が得られれば実験データの収集を行っていく。各症例には、比較・対照のため一般的な医学検査・神経心理学的検査も実施する。
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