研究概要 |
脳神経系ネットワークが正確に形成されるためには、個々の神経細胞の運動や形態変化(すなわちダイナミクス)が厳密に制御される必要がある。しかし実際の生体内では、神経細胞は常に複数の相反する作用を持ち得る因子にさらされている。神経細胞はいかにしてこれら多くの情報を統合し、時にはいくつかの情報をあたかも無視し、動き、曲がり、止まることを決定するのであろうか? 神経細胞のダイナミクスにおける情報統合機構の有力な候補の一つが細胞内カルシウム濃度変動である。本研究では、神経細胞がダイナミックに運動し形態を変化させるときに、細胞内カルシウム濃度はどのように変動するか、また、その形成はどのように制御されているのかについて知ることを目的とする。中でも、時間的・空間的に複雑なカルシウム濃度変動の形成に必須とされ、多くの情報が収束する細胞内カルシウム放出チャネルであるイノシトール1,4,5三リン酸(IP_3)受容体に注目し、その寄与を詳細に分析する。 IP_3受容体には特異的な阻害剤がせず、その機能解析の障害となっている。そこで、RNA interference(RNAi)法をIP_3受容体に応用することを検討した。各サブタイプの遺伝子に特異的な配列をもとに二本鎖RNAを化学合成し検討した結果、タイプ1とタイプ3のIP_3受容体をそれぞれ特異的にノックダウンする配列を得ることができた。これらを用いて、培養細胞においてその細胞内カルシウム濃度変動への効果を調べたところ、タイプ1 IP_3受容体は主に細胞全体におけるカルシウム応答の閾値や大きさを決定することを見いだした。一方、タイプ3IP_3受容体はカルシウムオシレーションを阻害する効果を持つことを初めて見いだした。
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