本研究では、ヒトとの間のコミュニケーション手段を獲得させ、それに乗っ取った意志疎通を繰り返すことで、サルに自己と他者の脳内表象を発達させた。平成15年度はそれらサルを用いて行動学的解析および神経生理学的解析を行った。まず、コミュニケーショシを行うに役割を果たすと考えた脳内腹側運動前野を除去した。すでにコミュニケーション手段を獲得していたサルは除去後もコミュニケーションを行うことができたが、除去後にコミュニケーション手段を訓練したサルは手段を獲得することがなかった。このことから、脳内腹側運動前野はコミュニケーションの実行ではなく、獲得に重要な役割を巣たすことが明らかとなった。また、除去後に訓練を受けたサルは、一旦覚えかけたコミュニケーション手段も状況の変化(相手の違いや相手の座る場所の違い)があると、忘れてしまい、再学習する必要があった。このことから、脳内腹側運動前野は機械的な運動の学習でなく、社会における柔軟性のある学習に重要であることが示唆された。また、コミュニケーションを行ったサルの腹側運動前野から回収した組織において、発現誘導される遺伝子を包括的に探索した結果、いくつかの遺伝子発現が誘導されていることがわかった。現在、コミュニケーションを行っているサルの脳内腹側運動前野からの神経細胞活動記録を行うとともに、定量的PCR法を用いて遺伝子発現量の定量を行っている。
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