子どもは、相手にも意図があることを学びながら身振りや言語によるコミュニケーション、そして他者との社会的関係の構築の仕方を学ぶ。近年の通信技術の繁栄は利便性をもたらす一方で、相手と対面し相手の身体の動きを直接経験する機会の減少につながり、健全な心身の発達に影響を与える危険性がある。サル腹側運動前野はこれまでヒトの発話中枢であるブローカ野に対応する脳領域と考えられ、前言語コミュニケーションに重要な部位と考えられてきたが、本研究は、視線や身振りなどの非言語コミュニケーション手段を獲得させ、ヒトと注意を共有しコミュニケーション経験を持たせたサルの腹側運動前野の破壊やムシモルによる不活性化によっても、視線や身振りなどの非言語コミュニケーションが完全には損なわれないことを示した。また、視線や身振りなどの非言語コミュニケーション時の単一神経細胞活動を測定・解析し、腹側運動前野の役割を解析した。それらの結果から、非言語コミュニケーションにおいて、腹側運動前野は他の脳領域との連携による回路ネットワークの一部をなすものであることを示し、これまで考えられていたよりも複雑な脳神経処理を必要とすることを示唆した。
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