Per遺伝子などの時計遺伝子が形成する転写・翻訳のネガティブフィードバックループが、24時間周期の生理リズムを生み出す体内時計の機構であることが明らかになってきた。私は神経幹細胞の自己複製能がPer2の抑制的調節を受け、24時間周期のリズム性を有していることを明らかにしてきた。そこで平成16年度では、Per2による抑制調節の分子機構を明らかにし、生体マウス脳内における神経幹細胞活性の日内リズム性について検討した。 胎生15.5日目のマウス線条体よりニューロスフィア法にて神経幹細胞を培養した。増殖因子であるEGFによって増殖刺激を与え、3日間に渡りRNAの抽出を行い、Per2やPer1などの時計遺伝子や細胞周期関連遺伝子の発現量の変化をRT-PCR法にて測定した。また、時計遺伝子Per2のAS投与の影響についても検討した。さらに成体マウス脳内の神経幹細胞自己複製能をBrdU免疫染色法にて検討した。 その結果、EGFの刺激により、時計遺伝子Per2とBMAL1遺伝子の発現は3日間にわたり約24時間周期で変動し、またPer2遺伝子AS投与により、神経幹細胞のDNA合成能が上昇することが観察された。しかしながら、Per1や時計遺伝子産物の認識配列であるE-boxを含むサイクリンD1やサイクリンB1、またはWee1は24時間周期の発現変動は認められなかった。一方、成体マウス歯状回顆粒細胞下層に存在する神経幹細胞の自己複製能には、明瞭な日内リズム性が存在することを明らかにできた。以上より、神経幹細胞の自己複製能がPer2やBMAL1などの時計関連遺伝子によって周期的に調節され、特にASによるPer2遺伝子発現低下は、神経幹細胞の効率的な増殖法であることを明らかにすることができ、内在性神経幹細胞の活性も時計遺伝子の支配を強く受けている可能性を示唆できた。
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