本研究では、哺乳類の大脳発生時における非対称分裂に関わる因子を探索し、非対称な細胞分裂を介した細胞の運命決定機構を、単一細胞レベルで明らかにすることを計画した。マウス胎生期の大脳に含まれる前駆細胞は、その分裂能から1)分裂能を持つ前駆細胞と分裂能を失ったニューロンの対、2)ニューロンの対、3)分裂能を持つ前駆細胞の対の3通りの可能性が考えられる。そこでまず、単一細胞レベルでこれらを解析するために、マウス胎生期大脳から単一細胞を取り出し、そのmRNAを単離してPCR法により増幅し、単一細胞由来のcDNAライブラリを複数個得た。ここで問題となったのが、これらの中から前駆細胞、そして前駆細胞の中でもある細胞のみ(たとえばニューロン2つ)を生み出す前駆細胞を、いかにして区別するかであった。このとき本実験と並行して行っていた大脳のスライス培養により、胎生中期にニューロンの対を生み出す前駆細胞の多くは、大脳壁脳室下帯・中間帯で分裂するという結果を得ることができたので、、その部位に発現していると期待されるいくつかの候補遺伝子の発現パターンを免疫染色法およびin situハイブリダイゼーションにより検討することにした。その結果、ニューロン対を生み出す前駆細胞を区別するためのマーカー遺伝子を、複数個得ることができた。これら新たに同定したマーカー遺伝子の発現量と、細胞増殖に関わる遺伝子の発現量とを組み合わせることによって、先に得ていた単一細胞由来cDNAをいくつかの種類に分類することができた。今後はこれらのcDNAライブラリを用いて、定量的PCRで既知の遺伝子の発現量を比較すると同時に、マイクロアレイを用いて網羅的に発現遺伝子量を比較することにより、前駆細胞の分裂の結果生じる2つの娘細胞間の運命の差を決定づけている因子の、候補遺伝子を絞ることを計画している。
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