マウス胎生期の大脳に含まれる前駆細胞は、その分裂能から(1)分裂能を持つ前駆細胞と分裂能を失ったニューロンの対を生み出すもの、(2)ニューロンの対を生み出すもの、(3)分裂能を持つ前駆細胞の対を生み出すものの、少なくとも3グループに分類することができる。本研究では、これら対称分裂・非対称分裂を介した細胞の運命決定機構を知るため、単一細胞レベルで遺伝子発現と細胞の運命との相関を調べることを計画した。平成16年度までに、単一の前駆細胞からcDNAを得る手法を確立し、102個の単一細胞由来cDNAを作成した。定量的PCR法によって各種マーカーとなる遺伝子の発現パターンからこれらの細胞をグループとして分類することが可能であった。そこで平成17年度は、30枚のマイクロアレイを用いて、これらの単一細胞由来cDNAにおける遺伝子発現の各グループ間での比較を網羅的に行った。その結果から絞り込んだ遺伝子について、そのmRNAの発現パターンをin situ hybridizationにより検討し、さらに102の単一細胞由来cDNAサンプルでのその発現量を定量的PCR法により測定した。これらの結果から、「ニューロンの対を生み出す前駆細胞」に特異的に発現している遺伝子を9個同定することができた。その中の一つである機能が未知の遺伝子SVZ1について、マウス胎児脳での発現阻害実験を行ったところ、細胞が脳室帯に留まるという表現形が観察され、本遺伝子が細胞の運命決定、移動、あるいはその両方に関わっている可能性が示唆された。
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