我々は、転写因子NF-κBが大脳皮質一次視覚野における眼優位可塑性に対し重要な役割を果たしているのではないか、という仮説を検証している。 まず、NF-κBの活性化を調べる系を確立した。NF-κBは活性化されると細胞質から核に移行することが知られている。そこで大脳皮質次視覚野の組織から核抽出物を精製し、そこに含まれるNF-κBをWestern blotting法により定量化した。この方法を用いて、強力な光刺激によるNF-κBの活性化を調べたが、明らかな変化は見られなかった。これは別の転写因子であるEgr-1/Zif268と対照的な結果であった。 次に、NF-κBの活性化を阻害するため、薬理学的、および遺伝学的な方法を試した。薬理学的には、様々なNF-κB阻害剤を浸透圧ミニポンプにより脳に直接投与したが、充分に拡散して効果があるものは見つからなかった。遺伝学的には、NF-κBの上流に位置し、その活性化に必須であるI-κB kinase(IKK2)遺伝子を、cre/loxPシステムを用いて終脳特異的に欠失したコンディショナルノックアウトマウスを作成しようとした。まず、IKK2遺伝子がlox P siteで挟まれたマウスに、Emx1遺伝子のプロモーター領域を用いてcreリコンビナーゼを発現させたマウスを掛け合わせたが、生後8日前後で死んでしまった。これは皮膚にもcreリコンビナーゼが発現したため生じた皮膚の病変が原因だと考えている。そこで、CaMKII遺伝子のプロモーター領域を用いてcreリコンビナーゼを発現させたマウスを新たに掛け合わせ、少なくとも生存することを確認している。今後はこのマウスを中心に生理学的な解析を行う予定である。
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