2004年までの先行研究により、背側線条体のプレプロタキキニンB産生神経細胞は無名質にニューロキニンBを放出し、それによって促進的な影響を受けるNK3受容体発現細胞は大脳皮質に投射線維を送り、GABAを放出することによって大脳皮質の神経細胞の活動を調節しているという新たな系の存在を示してきた。線条体には運動に関わる背側線条体だけでなく情動などに関係すると考えられる腹側線条体もある。この腹側線条体の関わる回路においてもプレプロタキキニンB産生神経細胞から発する大脳皮質調節系が存在するのかどうか調べた。腹側線条体にもプレプロタキキニンB産生神経細胞は存在しており、クラスター状の分布を示すなど特徴的な性質があることがわかった。このクラスターはミューオピオイド受容体の分布とよく一致し、また、DARPP32の免疫反応が少ない領域とも一致していた。さらにはある切片では島状に見えるクラスターが三次元的には連続した構造であることがわかった。トレーサーを用いた実験では、プレプロタキキニンB陰性細胞がventral pallidumあるいは腹側被蓋野に投射するのに対し、プレプロタキキニンB産生神経細胞は無名質の前方および腹側部に投射することがわかった。以上の結果により、腹側線条体においてもプレプロタキキニンB産生神経細胞が最終的に大脳皮質の活動を調節する系に関わっていることが示唆された。
|