ユビキチン陽性・タウ陰性の神経細胞内封入体は、筋萎縮性硬化症および前頭側頭型痴呆(frontotemporal dementia ; FTD)に特異的とされる。FTDには、運動ニューロン障害を伴う型と伴わない型があるが、いずれにもこの封入体は出現する。封入体の構成成分はユビキチン以外は不明である。そこで、その構成成分を明らかにするため、FTD5例(運動ニューロン障害を伴う例1例、伴わない例4例)の固定脳切片を用い、神経変性との関連が予想される種々の分子に対する抗体による免疫組織化学染色を施行した。ユビキチン抗体で染色すると、全例において大脳新皮質および海馬領域に神経細胞内封入体および神経突起が多数染色され、これまでの報告と一致した。これらの構造は、タウ、α-シヌクレイン、MAP5、ニューロフィラメント、Cu/Zn superoxide dismutase (SOD)、αB-クリスタリン、HSP70、heparan sulfate、GFAP、myelin basic proteinに陰性であったが、ユビキチン結合蛋白の一種であるp62に陽性を示すことが初めて判明した。さらに、運動ニューロン障害を伴う1例では、ユビキチン陰性のグリア細胞内構造がp62に陽性を示した。すなわち、白質では、多数のコイル状の陽性構造がC4d陽性のオリゴデンドロサイトの胞体内に存在した。皮質では、短く太い突起を有する棘状のp62陽性構造が少数認められ、これらはGFAP陽性であることからアストロサイトであることが判明した。 p62は、アルツハイマー病やパーキンソン病等に出現する細胞内封入体に陽性を示すことが報告されている。p62は、atypical PKC、p38^<MAPK>、p56^<lck>、PIP等の多くのシグナル蛋白と結合することから、p62が封入体に消費されることにより重要なシグナル伝達経路が障害され、神経細胞障害を来す可能性が指摘されており、同様の機序が本疾患の神経変性過程にも関与している可能性がある。また、本研究では、運動ニューロン障害を伴う例1例においてのみp62のグリア細胞内蓄積が認められたことから、グリア細胞変性は運動ニューロン障害を伴うFTDの特徴である可能性が示唆された。
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