本研究は、プレーシナプスの可塑的な変化が学習・記憶の過程にどのように関与するかを明らかにする目的で、プレーシナプスからの神経伝達物質の放出を制御するシンタキシン1Aのノックアウトマウスを作成し、その解析を行った。 研究計画に基づき、ノックアウトマウスの作成を行った。ノックアウトベクターをトランスフェクションし、相同組み換えによりシンタキシン1A遺伝子を欠損したES細胞を7クローン同定した。これらを用いてキメラマウスを作成し、C57/B6Jマウスと交配した結果、3系統のシンタキシン1A-ノックアウトマウスを得た。 はじめに、シンタキシン1Aのnull mutantが正常に発生するかについて、ヘテロマウス同士の掛け合わせで産まれる出生直後のマウスを用いて確認した。その結果、出生したマウスの遺伝型の比率はほぼメンデル遺伝に従っており、null mutantは正常に発生しているようであった。さらに、このnull mutantは少なくとも6ヶ月齢までは外見上顕著な異常は認められず、正常に成熟するようであり、生殖可能であった。 このノックアウトマウスの神経組織において形態的な異常が認められるか検討した。これまでのところ脳組織内において顕著な形態的な異常は認められていない。現在、培養神経細胞を用い神経突起形成に異常がないか検討しているところである。 また、学習・記憶に異常が認められるか行動学的解析を行った。現在、オープンフィールドにおける運動量・行動パターン及び恐怖条件付けについて検討を行っている。水迷路を用いた空問学習などについても解析を行う計画である。 今後、より詳細な形態学的解析、行動学的解析を行うとともに、DrosophilaやC.elegansにおいてシンタキシン1Aの欠損は致死であるにもかかわらず、作成したノックアウトマウスは正常発達する理由についても検討する予定である。
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