研究概要 |
嗅覚情報変換に関わる嗅細胞内分子の動向と解析を行った。試料には嗅覚受容細胞を用い、その情報変換はcAMPによって仲介されていること過去の報告で示されていたが、本研究では、更に情報変換に関わる各役者が、それぞれどのような分子的役割を担っているのかを解明するという学問領域へのチャレンジを進め、実際の匂い物質を適用した場合、嗅覚情報変換過程で、それを仲介する物質を同定することを目的とした。嗅細胞の情報変換は直径0.2ミクロンの微細構造体内(繊毛)で数秒の時間経過で展開する。情報変換因子の時間経過を実時間で測定することは、これまでの常識では不可能であった。しかし今回我々は光活性化分子(ケージド化合物)を定量的に利用し、実際の匂い応答と組み合わせて、リアルタイムな応答を確認した。ケージド化合物・パッチクランプ法とUV光量調節装置を組み合わせ、単離嗅細胞繊毛より得られた電流を記録、解析した。ケージド化合物とは、生理活性物質の分子に側鎖をつけることで生理活性を不活性化し、UV光によって側鎖をはずし、活性化させるものである。すなわち、光によって細胞内や組織内の物質を自由に制御することが可能となる。本研究ではパッチクランプ法と組み合わせたことで定量的なシステム解析に対する応用が可能となり、生体分子の機能的役割を調べることができた。更に、新しいケージド化合物(bhc-caged cAMP)の応答効率を調べるため、嗅細胞をモデル細胞とし、その効果を調べることを試みた。その結果、新しいケージド化合物を嗅細胞に適用した際に、その効能は市販されているものと比較して約10倍も高効率であることを明らかにすることができた(Furuta et al.,2004)。これより、bhc-caged化合物は嗅細胞のみならず、他の細胞への応用も今後期待できる。
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