研究概要 |
リハビリテーションによる脳機能回復にともなう神経回路再構成プロセスを解明するために、今年度は以下の2点に関して研究の進展があった。 1.リハビリテーションが脳機能の回復を促進するメカニズムを明らかにするために、またどのようなリハビリテーション法が有効かを検証するためにも適切なモデル動物による実験系を確立することは不可欠である。本研究では上肢の運動機能回復を検証するためのモデル動物として、ヒトに近い上肢の動力学的特性や、手先の器用さを持っているマカクザル(ニホンザル)を用いた。具体的には、ニホンザルの第一次運動野において皮質内微小刺激を行い、第一次運動野の機能地図を細かく調べたのち、イボテン酸の注入により運動野の指領域に実験的脳損傷を作成した。その後運動機能の障害を受けた上肢に対して、小さな物体を小さな穴からつまみ取るというリハビリテーション課題を行わせたところ、30日のリハビリテーションで実験的脳損傷を作成する以前と同程度にまで上肢の運動機能が回復した(Higo et al.,2004)。今後本実験系を用いてリハビリテーションが上肢機能の回復に及ぼす影響が明らかになっていくと考えられる。 2.リハビリテーションが脳に及ぼす影響を組織学的に検証するための第一段階として、通常脳での神経成長関連タンパクの遺伝子発現を調べた。その結果、神経成長関連タンパクの遺伝子発現は発達期の脳全体で発現しているのに対し、成熟脳では海馬のアンモン角や小脳の顆粒細胞など限られた細胞種のみで顕著な発現が見られることを明らかにした(Higo et al.,2003,2004)。来年度は脳損傷後のリハビリテーションによる神経成長関連タンパクの遺伝子発現を調べることにより、リハビリテーションが脳のどの領域に構造的な変化を引き起こすのかを解明する。
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