研究概要 |
マウスES細胞から、単一の肝実質細胞だけでなく、類洞(血管)内皮細胞と肝実質細胞が共存する「肝組織」様集団へ分化誘導するシステムの開発に成功した(Ogawa, S, Tagawa, Y., et al., Stem Cells (in press))。このシステムを用いると肝細胞マーカーであるアルブミン、トランスサイレチン、αフェトタンパク質、α1-アンチトリプシン、チロシンアミノ転移酵素、トリプトファンオキシゲナーゼなどの遺伝子発現が確認される。さらに、成熟した肝実質細胞のみが発現できる肝特異的トランスポーター、アシアロ糖タンパク質レセプター、チトクロームP450ファミリーなども発現していた。遺伝子発現のみならず、アルブミンタンパク質の産生やアンモニア分解能力も確認され、肝実質細胞のみの初代培養系よりも強いアンモニア分解能を持つことがわかった。このことは、肝実質細胞初代培養系では類洞内皮細胞が存在していいないため肝機能が弱いことが考えられ、我々のES細胞由来肝組織が、よりin vivoの肝組織に近いことが確認できた。今後、薬物動態試験の実験動物の代替システムとしての有効性やバイオ人工肝への応用が期待できると思われる。 また、再生医学研究で有益になる赤色蛍光タンパク質を産生するマウスES細胞の株を樹立し、その株からキメラマウスを経由してトランスジェニックマウスの作製に成功した。この赤色蛍光マウスは、全身の全ての細胞で赤色蛍光タンパク質を産生し、G励起光を当てると赤色蛍光を発することが確認された。国内においては初めてであり、また国際的にもここまで強く赤色蛍光を発するマウスはいないと思われる。このマウスから採取される細胞(例えば、骨髄幹細胞や肝実質細胞など)は全て赤色蛍光を呈するので、移植実験のドナー細胞として極めて有効である。
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