本研究では、高分子鎖の3次元ネットワーク(高分子ゲル)内に酵素内包ポリイオンコンプレックスミセルを存在させることにより、高分子ゲルの架橋密度を制御することによってゲル内での酵素内包ミセルの拡散を抑え、空間的に固定化する。具体的には、ポリエチレングリコールとポリアミノ酸からなるブロック共重合体と酵素(卵白リゾチームあるいはトリプシン)を混合することによって粒径50nmのポリイオンコンプレックスミセル溶液を調製する。次にこの溶液にN-イソプロピルアクリアミド及び架橋剤を添加しレッドクス重合させることによって、高分子ゲル内に酵素内包ポリイオンコンプレックスミセルを固定化する。酵素を固定化した高分子ゲルも調製し、低分子量の基質を用いて分光学的手法により酵素活性を比較する。さらに、高分子ゲル(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲル)表層に温度変化によってスキン相を形成させることによって基質の透過性を制御することによってバイオナノリアクターの機能制御についても検討を行い、3次元高分子ネットワーク中へのナノ微粒子の空間的固定化の概念を確立し、その有用性を実証することを目的とする。 本年度は、次年度に検討を行う高分子ゲルのスキン相形成を利用した機能制御を行うためには、温度変化によるバイオナノリアクターとしての酵素内包ポリイオンフンプレックスミセルの特性変化を把握することが重要である。そのために、酵素(卵白リゾチーム・トリプシン)とポリエチレングリコール-ポリアスパラギン酸ブロック共重合体から形成されるポリイオンコンプレックスミセルの物理化学的特性及びバイオナノリアクターとしての機能(酵素活性)への温度の影響を検討し、次年度検討を行うポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルの相転移温度(32℃)近傍においては顕著な特性の変化が生じないことが確認された。次年度は、このバイオナノリアクターの空間的固定化を検討する予定である。
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