本研究は、軟骨組織の再生に着目し、これら組織工学の手法を用いた骨系統疾患患者の治療方法を確立しようとするものである。本研究の特徴は、臨床応用に直結した、軟骨再生用マトリックスの開発研究である。現在までに再生軟骨材料として評価してきた生体吸収性材料の中で、PGAを用いた特殊な不織布を用いて、骨膜によるカバーを用いない関節軟骨再生法を新たに開発した。ウサギ膝軟骨欠損モデルを作製し、未分化間葉系幹細胞(MSC)を関節軟骨部の欠損にPGAの不織布を担体として埋入することで、骨膜等で関節面を被覆する方法と同程度の関節面保護、癒着防止効果が得られることが分かった。術後2・4・8・12週での肉眼的所見、組織学的評価、蛍光免疫染色(I型およびII型コラーゲン)を行い作成した移植片の評価を行った。これらの結果より、移植組織が骨、軟骨組織両方に分化をしていることが証明され、関節軟骨の再生が見られた。長期群32週後の結果においても、関節軟骨が組織学的に骨膜被覆群と同程度存在しており、これにより治療侵襲を軽減できるのみでなく、長期予後の改善にもつながる結果を得た。 これまで行った、種々のマトリックスによる、再生軟骨作製の結果より、注入型マトリックスにおいても、軟骨作製はできることを証明したものの、マトリックスの種類による適、不適が存在し、臨床レベルにおいては、不織布であるPGAのデータが一番よい結果になった。また、超音波刺激による間葉系幹細胞からの効率的培養法の確立に成功したことより、軟骨細胞の物理的刺激による分化促進効果が言えた。さらに、分化促進効果を得た細胞からできた軟骨組織の肉眼的、組織学的所見から、その細胞毒性や異物反応が起こりにくく、細胞も組織の内部で生存していたことから、よりよい軟骨組織を作製する能力を持つことが予想された。
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