がん遺伝子産物に関する知見や細胞内シグナル、血管新生、そして転移機構などに関する近年の著しい進展は、従来にないコンセプトに基づく化学的あるいは生物学的に治療法を可能にしている。本研究では、様々な作用機序によって抗腫瘍活性を示す複数の薬物をモデルとし、これらを外部刺激もしくはがん周辺の微小環境に応じて、自身の立体構造を変化させることが分子と複合化した新しい薬物を開発している。本年度は抗腫瘍活性をもつ代表的サイトカイン腫瘍壊死因子(TNF)に着目した。TNFはマクロファージから産生され、三量体を形成することによってサイトカイン活性を示すことが知られている。培養系においてはこれまでに多くのヒト腫瘍細胞の増殖を抑制し、SCIDマウスに移植したヒト由来の異種移植片をもアポトーシスの誘導によって消滅せしめることが明らかとされている。しかしながらTNFは毒性が非常に強く、全身投与ではきわめて重篤な副作用を示すため、臨床への応用はごく限られたものとされている。本年度はPCR法によってヒトTNF遺伝子をクローニングし、発現ベクターpET21に挿入した。これを大腸菌株BL21(DE3)に形質転換したところ、培地1L中からmgオーダーの組み換えTNFの発現に成功した。またTNFのN末端側に分子量12KDaのチオレドキシン(Trx)を付加した融合タンパク質では、Trxの有無によって三量体形成、すなわちTNFの活性制御が可能であった。
|