研究概要 |
毛細血管内の血流動態を把握するため,ナノ・マイクロマシニング技術を利用し,直径10μm以下の毛細血管網をシリコン基板上に精度よく構築し,その模擬毛細血管内(マイクロチャンネル:以下MC)を流れるヒト血液の循環特性と赤血球の動的変形能を精度の高い実験によって,定量評価するシステムを構築・評価することを目的とし実験を行った. まず本研究で作成したMCは,フォトリソグラフィーと高密度イオンプラズマによるドライエッチングで作成することで,従来のMCと違い流路断面をほぼ正方形にすることができた.これにより,MC内での赤血球の変形・挙動を,顕微鐘によって詳細に観察することが可能となった.作成したMCアレイチップをガラス基板に圧着し漏れのない流路を形成し,全血検査用真空採血管で採取したヒト血液を,ACD液でヘマトクリット10%に希釈し,生理条件とはば等しい通過速度0.5mm/sec程度になるようMC(1辺3〜10μmの正方形断面,流路長さ約100μm)に供給し,赤血球がMCを通過する様子を,倒立型顕微鏡に取り付けた高解像度高速度カメラで撮影し,変形の様子を観察・撮影した. その結果,赤血球がMCを通過する際,流路中心軸に対し,非対称および対称の2通りの変形をしていた.この対称変形をしていた赤血球の中に,一般的によく知られているパラシュート型変形に見えるものも観察できたが,この赤血球がMCから出る瞬間を観察したところ,凹みの位置は変わらないままbiconcaveに戻ることが観察できた. 以上から,パラシュート型変形しているように見える赤血球は,流路内を移動する際,赤血球背後の血漿流れの動圧を受けたため,赤血球の下流側が前側に押し込められ,このため後部がガラス面に接触し白く写り,パラシュート状に見えたと考えられ,実際にはパラシュート型変形をしているわけではないと考えられる.
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