研究概要 |
人工酸素運搬体の実現は昨今の献血事情や保存性,血液型による制限や感染の危険性を勘案するとその実現は急務であると考える.本研究では微小循環動態の変化に伴って変化する脳細胞の酸素代謝を時系列的に評価するために,血流解析および微小血管内酸素分圧計測を行い,さらにミトコンドリア内TCA回路で産生される補酵素NADHの紫外吸光特性に着目し,組織酸素代謝レベルのイメージングを試みた. Wistar系雄性ラットを2群に分け,細静脈酸素分圧計測群と脳表NADH蛍光計測群とした.右大腿動静脈および左大腿動脈を確保し,左頭頂骨にclosed cranial windowを作製した.微小循環血流は赤血球をFITC標識することで可視化した.脳皮質NADH蛍光は370nmの紫外光を断続的に照射し,λ>420nmの蛍光を画像として取得すると共に連続的に輝度解析した.実験は大腿動脈より脱血して血圧を40mmHgまで低下させ,その状態を10分間維持し,その後自己血液を輸血することで蘇生させた. 脱血による血圧の低下に伴って血流速度および微小血管内酸素分圧は著明に低下し,相反的にNADH蛍光輝度がおよそ20%上昇した.また,返血蘇生によって各パラメータはbaselineへ回復した.以上より,脳虚血による微小循環血流障害,微小血管内酸素分圧の低下,脳組織における好気性酸素代謝レベルの低下といった一連のプロセスを同一固体において連続的かつ定量的に評価することが可能になった.本計測システムは局所微小循環動態および酸素代謝の解析,人工酸素運搬体の評価等に有用であると結論できる.
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