生体内の器官・組織は常に荷重を受け、変形している。また、生体が受ける力学的刺激は、組織・器官の形状や生理的機能に影響を及ぼす。したがって、生体の生理ならびに機能を理解するためには、生体組織やその構成要素である細胞の力学的性質を明らかにする必要がある。本研究では細胞骨格に着目し、その状態と細胞の力学的性質の関係を明らかにすることを目的とした。 はじめに、細胞骨格形成量と細胞剪断接着力の骨格発達方向依存性の関係を検討した。ガラス表面に細胞外マトリックスであるフィブロネクチンを被覆後、ヒト正常線維芽細胞HEL299およびNHDFを培養した。細胞骨格形成状態をローダミンファロイジンで染色により観察し、さらに、剪断接着力・剥離エネルギーを測定、細胞骨格の発達方向依存性を調べた。得られた結果を、マウス線維芽細胞L929の結果と比較した。その結果、細胞の種類により細胞骨格形成状態が異なることが判明した。HEL299では細胞上部・下部のいずれにも細胞骨格が形成されたが、NHDFでは細胞上部にのみ、L929では細胞下部にのみ細胞骨格が形成された。 剪断接着力・剥離エネルギーの細胞骨格発達方向性依存性は、細胞骨格形成量が大きい細胞の方が明確に現れた。剪断接着力・剥離エネルギーは剥離方向に対し細胞骨格が垂直に交差する方が、平行に発達している細胞よりも大きくなる傾向が認められ、細胞骨格形成量が大きいHEL299において、顕著であった。 剪断接着力・剥離エネルギーの細胞骨格発達方向依存性が現れた理由を解析するために、生細胞における細胞骨格の可視化を行った。そのために、HEL299へのEYFP-アクチン融合遺伝子のリポソーム法による導入を行い、一過性ではあるがEYPF-アクチン融合タンパク質によるアクチン線維・ストレスファイバーの可視化に成功した。
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