研究概要 |
本研究の目的はヒトの接近速度弁別能力という知覚特性を定量化できるシステムを構築し,様々な道路環境で検査することにより歩行時に自主的に事故を防止できる交通環境の設計指針を構築することである.以前我々が開発したシステムでは,車両にみたてた光点(以下,ターゲット)を実空間に呈示させ,接近速度弁別能力を検査した.その結果,成人と比べその能力が低下している高齢者がいること,高齢者では単眼視と両眼視で正答率に差がないことを明らかにした.この理由として我々は,高齢者の両眼性の奥行知覚能力が低下していると推測した.そのため,実体鏡の原理を用いて両眼性の奥行手がかりで奥行知覚される接近対象を仮想空間に呈示し,接近速度弁別能力を検査する小規模な検査システムを構築した.交通事故防止という観点から,実際の交通環境を再現したかったが基礎データが足りなかった. 今年度は視覚刺激として単純な刺激を用い,基礎データの収集として成人と高齢者を対象に様々な条件で接近運動させた.実体鏡で呈示した視覚刺激を両眼立体視として認識できた確率を融合率として調べた.その結果,成人よりも高齢者の方が高い融合率となることがわかった.また,融合率は接近対象の移動距離によって差があり,さらに高齢者では接近対象の大きさによっても融合率に差があることがわかった.また,両眼立体視できる接近対象の条件で接近速度弁別能力を調べ,加齢の影響を検討した.その結果,高齢者の中には成人やそれ以上に接近速度を弁別できる高齢者もおり,個人差が顕著であった.また,成人に比べて高齢者の能力は低下していたものの,統計的な差はないことを明らかにした. 来年度は大型スクリーンを用いて実際の交通環境に近づけた検査を行う予定である.
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