研究概要 |
本課題では,姿勢バランスの動力学を扱うにたる精度と利便性を兼ね備えた身体装着型のセンシングシステム,および動力学モデルに基づく安定性指標の開発を主たる目的としている.今年度は基礎的な課題として,1.歩行を評価する上で最も重要な因子の一つである歩行速度を簡便な装着型システムにより推定する方法の考案,2.立位姿勢における急加速度刺激に対する姿勢回復能力の定量評価,3.立位や歩行中に見られる体幹動揺の非線形揺らぎ成分による安定性解析の3点に注力した.歩行速度の推定は,歩幅の変化が体幹の上下振幅に反映されることに着目し,体幹の上下加速度の強度を信号エネルギーで定量化した.信号エネルギーと実測の歩行速度には良好な対数関係が認められ,その近似式を歩行速度推定式として用いることにより,高齢者のすり足歩行にも対応可能な歩行速度推定式を提案した.姿勢回復の評価は,踏み台がスライドする振動台により急加速度刺激を負荷し,モーションキャプチャを用いて,姿勢回復動作を動力学的に解析した.姿勢回復の手段となるHip Strategyや踏み出し動作の選択基準を,支持基底面に対する重心投影点の位置と移動速度から明らかにした.また,若年者の筋疲労前後での歩行状態の変化を体幹動揺の非練形成分をApproximate Entropyにより定量化して歩行安定性指標として活用できることを示した.体幹動揺は腰部に取り付けた小型加速度センサにより計測した.一方,床反力計を用いて高齢者の立位バランス評価を行った.重心投影点の移動軌跡と分布を誤差楕円として評価し,筋力等の運動生理学的な指標との相関性を調べた.今後,重心投影点移動の時系列データを用いて,フィードバックによる姿勢調節の観点から解析を行い,姿勢安定性指標の開発を進める予定である.
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