研究概要 |
検診の現場でも簡単に歩行の安定度や安定余裕の評価を行える小型携帯型の評価システムの開発を目指して研究を行った.これには,力学的な見地から歩行中の姿勢バランスの良否を定量評価する解析指標,また,それに十分な精度を有しながら無拘束な計測を可能とする計測システムが必要である.我々は,歩行安定性,安定余裕の評価指標として,非線形時系列解析に基づく歩行安定性指標,体幹重心の運動状態による転倒危険度の評価指標を示した.特に本年度は,運動トレーニングによる高齢者の歩行機能向上の介入効果を定量化することを通じて,手法の有用性,ならびに下肢筋力等に関する医学的な所見との相関性について検討を行った.また,装着型の計測システムとして,3軸加速度センサ,3軸ジャイロ,SRAM, MPUを搭載した,小型計測装置を試作した.100名規模の高齢者に対して腰部に装置を添付し歩行データを計測した.Lyapunov Exponentによる動的安定性の評価を行い,歩行安定性が下肢内外転筋力,伸展筋力の増加と有意に相関して向上することを示した.一方,ステップタイミングの異常,また体幹の運動状態と姿勢から,姿勢回復の可否と安定余裕を推定し,これを転倒危険度として評価する方法を示した.行動状態判定,および転倒危険度判定が装着型装置に実装可能としており,転倒の危険に達する姿勢の不安定が「いつ,どこで,どの程度」発生したのか,一日のなかでの行動状態を判定して記録することを可能としている.以上の装置により,簡便に姿勢の安定性を数量化できれば,検診の歩行テストにおいて転倒予備軍を早期に発見することも可能である.また,運動介入による改善効果を数量化してフィードバックすることにより,個人にとってより適切かつ最大効果の処方を行うことが期待される.
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