本研究では、健聴者と聴覚障害者の視覚刺激に対する反応の違いを生理的レベルで捕らえ、新たな視覚刺激チャネルの発見を含め、聴覚障害者を対象としたAR技術応用のための基礎データを提供することを目的している。このために、まずは限定条件下での聴覚障害者の視線の変化を捉える方法について検討し、今年度はそのための実験環境の基本的な整備を行った。 具体的には、今年度予算で購入した眼球運動計測装置による視線追跡を行うための動作環境の調整を行った。これには提示情報の光量の微調整、計測誤差を少なくするための装置のキャリブレーション方法の確立、動画像である実験データの、画像解析時の効率を考慮した保存方法の検討、および画像解析後のデータの分析基準の検討などが含まれる。 同時に、出力デバイスについても検討を加えた。当初計画では光学シースルーヘッドマウントディスプレイを用いることになっていたが、光学的に透過ではない単眼形ヘッドマウントディスプレイについても評価を行うこととした。透過型ではない単眼形ヘッドマウントディスプレイには、現実世界の映像と拡張された情報の重ね合わせに際して若干の困難が予想されているが、近年の著しい低価格化により、提示情報の密度・解像度に制限を加えることで、十分実用的と思われる範囲内に入ってきたためである。この知見に基づき、評価用の単眼形ヘッドマウントディスプレイの手配・設定・実験計画への組み込みを行った。
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