平成17年度は、平成16年度中に開始した運動訓練による脳可塑的変化に関する研究をさらに発展させた。これまでに、運動訓練中の肢位の違いによって脳可塑的変化に違いが生じることを明らかにした。その結果を踏まえて、「一次運動野のニューロンが筋力のみならず運動方向に反応して活動することが可塑的変化のメカニズムではないか」との仮説を立てた。右手首橈屈運動訓練を水平面と垂直面で行った前後に、水平面での手首伸展運動を行ったときの脳活動の経時的変化を磁気共鳴機能画像法を用いて計測した。すなわち、運動訓練前、訓練後5分、訓練後25分の一次運動野および補足運動野の神経活動の強さを2つの運動訓練間で比較検討した。その結果、垂直面での運動訓練においては異なる筋群(手首橈屈筋群)を使用するにも関わらず、運動訓練後に行った水平面での手首伸展運動(手首伸筋群を用いる)による一次運動野の神経活動の増強が生じた。一方、水平面での運動訓練前後では、一次運動野の可塑的変化が惹起されなかった。2つの運動訓練では使用筋群は同一であるが、運動の方向が異なっている。この結果から、垂直方向の運動に関与する一次運動野の方向ニューロンが脳可塑的変化に関与することが示唆された。本研究結果は、リハビリテーション療法に応用可能であると考えられる。たとえば、特定の筋群が使用できない患者においても、別の筋群を用いて同一方向の運動訓練を行うことによって、運動機能を回復されることが出来る可能性がある。なお、本研究の予備実験については平成16年度に開始しており、本年度において継続して実験を行った。
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