研究概要 |
近年、認知反応課題の遂行に関連するとされる大脳皮質領域上で記録される脳波活動の位相が同期(phase-synchronization)することが、知覚の成立および反応の遂行と深い関わりがあることが示唆されている(Varel a et al. 2001)。そこで本研究は、ヒトの認知反応課題遂行のパフォーマンスと脳波(electroencephalography : EEG)の位相同期現象(phase-synchronization)の関係を明らかにすること、および、脳波の位相同期(あるいは脱同期)を経頭蓋磁気刺激(TMS)によって外的に制御することで課題遂行のパフォーマンスにどのような影響がみられるか(すなわち、意図したように変化するか)を検討すること、を目的とした。 そこで本年度においては、認知反応課題遂行中の脳波から、位相成分を抽出してその同期現象と課題のパフォーマンスとの関わりを検討することに従事した。そこで多チャンネル脳波計で測定した脳波から、独立成分分析(independent component analysis : ICA, Bell and Sejnowski 1995)を用いて瞬目・眼球運動によるノイズ成分を除去した後、周波数帯域ごとに振幅成分と位相成分に分解し、(1)振幅成分が事象に関連して変化するか、(2)位相が事象に関連して同期・脱同期するか、(3)離れた電極対の「位相差」が事象に関連して同期・脱同期するか、を評価しマップ化するシステムを作成した。 予備的な知見ではあるが、現段階で、視覚刺激を認知するか否かをノイズによって操作する心理物理実験のパフォーマンスと視覚野と運動野の「位相差」の同期度上昇が関連すること、左右の耳から異なる周波数の聴覚刺激を別々に入力したときに生じる「うなり」 (binaural beat)の知覚と左右聴覚皮質および前頭皮質を含む広範囲の電極対の「位相差」の同期度上昇が関連すること、が確認されている。これらのデータは知覚の成立と脳波の位相(差)の同期の関係を示唆するものと言えるであろう。
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