近年、大脳皮質領域上で記録される脳波の位相同期(phase-synchronization)が、知覚の成立および反応の遂行と深い関わりがあることが示唆されている(Varela et al. 2001)。本研究は、ヒトの認知反応課題遂行と脳波(EEG)の位相同期の関係を明らかにすること、および、EEGの位相同期(あるいは脱同期)を経頭蓋磁気刺激(TMS)によって外的に制御することで課題遂行のパフォーマンスに影響がみられるかを検討すること、を目的とした。 そこでまず、多チャンネル脳波計で測定した脳波から、独立成分分析を用いて瞬目・眼球運動による成分を除去した後、周波数帯域ごとに振幅成分と位相成分に分解し、(1)振幅成分が事象に関連して変化するか、(2)位相成分が事象に関連して同期・脱同期するか、(3)電極間「位相差」が事象に関連して同期・脱同期するか、を評価しマップ化するシステムを作成した(ここまで平成15年度分)。この脳波同期度マッピングシステムにより、(1)ノイズによる視覚認知機能向上と視覚野と運動野の電極間「位相差」の同期度上昇が関連すること、(2)わずかに異なる周波数の聴覚刺激を左右の耳に別々に入力したときの「うなり」(binaural beat)知覚と左右聴覚皮質を含む広範囲の電極間「位相差」の同期度上昇が関連すること、を確認した。これらは知覚の成立と脳波の同期・脱同期現象に関連があることを示唆するものであった。 また、最も簡単な認知反応課題であるGo/NoGo課題遂行中の脳波を同期度マッピングシステムにより解析した結果、視覚刺激提示のみと比較して、前頭部を含む広範囲で電極間α-β帯域の脳波の「位相差」の同期度が上昇することが確認された。一方、同じGo/NoGo課題遂行中に前頭部にTMSを行うとGo試行の反応が遅れ、NoGo試行における間違い反応が増加することも確認した。これは、本研究の仮説によく一致する結果で、TMSにより脳波の位相リセットが生じたことの影響かもしれないが、今後さらに詳細な検証が必要である。
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