ヒトの深部体温は1日24時間を一周期とした概日リズムを示す。この安静時深部体温の概日リズムの中で、特に夜間の体温低下に関係しているのが松果体から分泌されるホルモンのメラトニンである。一方、体温調節機能は運動に伴う過度の体温上昇の防止や、寒冷環境下において体温を一定レベルに維持するうえで重要な役割を果たしている。しかし、深部体温の概日リズム調節に関係するメラトニンがこの体温調節反応にどのような影響を及ぼすのかは、未だ明らかでない。そこで本年度は、以下の観点から体温調節機能に対するメラトニンの影響について検討を行った。 (研究実験)身体外部からの温度変化として全身加温刺激を負荷した際の皮膚血管拡張反応に対するメラトニンの影響に着目し、特にその際の皮膚血管拡張反応が交感神経系皮膚血管収縮神経あるいは皮膚血管拡張システムのどちらの機構により制御されているのかについて、メラトニン経口投与条件と対照条件とで比較検討した。 実験では、薬品ブレチリウムをイオン電気導入法により皮下に電気的に注入することにより、皮膚血管収縮神経活動の局所遮断を行った。投与条件ではメラトニンの経口投与を行い約100分の安静状態を維持した。その後、全身加温を実施した際の深部体温、皮膚血流量および発汗量等を測定した。その結果、全身加温による皮膚血管拡張の深部体温閾値は投与条件が対照条件に比べて有意な低下を示した。また、深部体温上昇に対する皮膚血管拡張の感受性についても投与条件の方が有意に小さくなった。これらの結果から、温熱負荷時の皮膚血流反応へのメラトニンの影響は、主に能動的血管拡張システムの機能を介して現れることが明らかとなった。
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