研究概要 |
運動神経損傷時の修復に際して,受容体と結合した神経栄養因子の増加と受容体のリン酸化が生じ,さらに,その下流には数種類のシグナル伝達経路があることが多くの研究者によって報告されている. 本研究の目的は,運動時にも神経損傷時と同様なシグナル伝達が行われることによって運動神経細胞の適応が生じているのか,あるいは独自のシグナル伝達経路が存在するのかどうかについて実験動物を用いて確認することにある. そこで,平成15年度は,Wistar系ラットにトレッドミルによる一過性のランニングを速度30m/分で60分間行わせた際に,脊髄腰膨大部において受容体のリン酸化が生じるか否かを検討した. 運動前,運動10分後,20分後,40分後,運動終了直後に脊髄腰膨大部を摘出し,ホモジナイザーにより試薬とともに破砕・混合し,遠心分離後,摘出組織の試料調整を行った.調整した試料を電気泳動した後,トランスファーボックス内でメンブレンに転写させた.メンブレンに神経成長因子(NGF)の受容体であるTrkAのリン酸化認識抗体を滴下し,染色反応により可視化した(Western Blotting). その結果,運動前に比較して運動後にリン酸化されたTrkAが増加しており,さらには運動時間依存的にリン酸化されたTrkAが増加する傾向にあった.したがって,運動によってTrkAのリガンドであるNGFが脊髄神経細胞に何らかの作用を及ぼしている可能性が考えられる.
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