セロトニン神経は睡眠や覚醒、鬱や不安等にも関係する重要な神経である。本研究ではセロトニン神経がリズム性運動によって活性化するという、ユニークな特徴に注目して実験を行い以下の結果を得た。 1、ヒトを対象として、ゆっくりとしたリズムの呼吸運動(呼吸法)を20分間行わせた。その結果、呼吸法前後に定量した尿及び血液中のセロトニンレベルは呼吸法後に増大した。呼吸法中に記録した脳波を1分毎に周波数解析したところ、high-frequencyα波(HFα波)帯域のパワーが呼吸法開始後約5分の時点から増大した。呼吸法前後に心理テストを実施した結果、呼吸法後には不安が少なく活気のある心理状態になった。 2、#1と同様の呼吸法の最中に、ヒラメ筋にH反射を誘発し、振幅の経時的な変化を調べた。その結果、呼吸法開始後約5分の時点からH反射振幅が増大する結果を得た。また、呼吸法前後に定量した尿中のセロトニンレベルは呼吸法後に増大した。 3、リズム性運動としてガム咀嚼を20分間行わせ、その最、中に侵害受容屈曲反射(nociceptive flexion reflex : NFR)を誘発して、その大きさの経時的変化を調べた。NFRの誘発刺激は痛みを伴うので、VASによって痛みを主観的に評価した。その結果、NFRの大きさにガム咀嚼開始後約5分の時点から減少した。VASはガム咀嚼中に減少し、NFRの大きさと有意な相関があった。ガム咀嚼前後に定量した血液中セロトニンレベルはガム咀嚼後に増大した。 以上の結果から、リズム性運動は脳幹にあるセロトニン神経を活性化させ、その投射先である大脳皮質に対しては脳波のHFα波の増加、脊髄前角に対してはα運動ニューロンへの促通効果、脊髄後角に対しては侵害伝達を介在するニューロンに対しての抑制効果に貢献すると考えられた。また、リズム性運動は被験者の活気や不安に関係する心理状態、主観的な痛みをも改善すると考えられた。
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