高齢者の機能評価における実際の適用場面では、経時的な機能特性の変容を評価値として反映できるかが重要である。筆者の昨年度までの研究(横断的資料に基づくADL指標の有効性およびADL能力特性の評価)で得られた知見をもとに、本研究では、1)定期的なADL評価を行った際に、既存のADL指標が機能特性の変容をどの程度評価値に反映しうるか、2)要介助高齢者のADL能力における縦断的な能力特性の変容にはどのような特徴が見られるか、3)横断的資料に基づいて筆者がこれまでに提案した機能水準判別のスクリーニング基準が縦断的資料にも反映されるか、について検討している。 本年度は、昨年度より実施している施設入所者に対する縦断的評価を継続して実施した。評価内容は、昨年度までの内容(ADL評価:要介助高齢者用ADL指標およびBarthel index、身体的自立度評価、痴呆評価、QOL評価:全体的な生活満足、および療養・リハビリテーションの内容)に加え、握力解析システムを用いた筋力発揮調整能の測定を定期的に実施した。このシステムは、パソコン画面上で周期的に変化する発揮要求値に合わせて自己の握力の発揮力量を調節する課題を課す。中枢-末梢系の神経機能リハビリテーションの一環として、このシステムも定期的に実施した。これらの検討事項は、研究成果としてはまだ公表されていないが、これまでの検討結果では以下の傾向が認められている。すなわち、縦断的調査で自立度(日常生活自立度判定基準)がランクCまたはランクAに変化したケースにおいて、横断的資料から得られた先行研究の知見と同様の傾向が認められたのは50%程度であった。個々のADL能力や自立度の変化には個人差があり、横断的資料による集団の傾向を分析した先行研究の結果とは異なるケースが認められた。今後、横断的資料を用いたスクリーニングとしての利用と、縦断的資料を用いた利用法についてさらなる検討が必要と考えられる。
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