本研究の目的は、障害や疾患をもつことによる生活上の変化を構造的に整理・把握することにある。具体的には薬害HIV被害者における身体や生命への影響、社会生活面への影響、精神面への影響を分析して、生活への影響を構造的に整理することを目的としている。 3ヵ年計画のうち初年度は、既存資料の検討と、関係者へのヒアリング、調査票の検討を行った。本年度は、全国のHIV陽性者を対象にした調査結果のうち、薬害HIV被害者の結果について分析し、性感染者と比較することで、薬害被害者の現状について検討をすすめた。 調査は、全国のエイズブロック拠点病院4ヶ所およびエイズ治療拠点病院1か所において、自己記入式の質問紙を医療者の協力により配布した。対象者は、20歳以上65歳未満の外来患者。配布801票、拒否29票、回収票566票、回収率72.3%であった。 薬害被害者は現在20代から30代になっている人が多いが、就労率が低く、STD等のHIV陽性者と比べても非就労率が高かった。経済的には、生活上十分ではないが訴訟の賠償制度による手当が多少あり、医療費の負担はない。障害年金を受けている人も多い。親と同居し、親の扶養家族として暮らしている人も少なくなかった。主観的な暮らし向き評価については、極めて困窮しているという状況ではないものの、自身の就労収入だけで生活できているという人は比較的少なかった。 日常生活や人間関係で制約感が強く、STDによる陽性者よりも周囲に病名が漏洩する不安を強くもっている傾向がみられた。薬害被害者の多くは血友病や肝炎などももっているため外見に身体症状が表れやすく、HIV感染症だけもつ人よりも病名漏洩不安が強いのかもしれない。就労する上での困難として、服薬等の健康管理よりも「病名を隠す精神的負担感」の方が強かったという調査結果を考慮すると、この背景については次年度にさらなる検討が必要である。
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