研究概要 |
日本は世界的に胃癌のリスクが高い国として知られており、その原因の1つが日本特有の食生活にあると考えられてきた。中でも塩干魚の摂取と胃癌の発生との間に正の相関が認められ注目された。近年、サンマを食塩と亜硝酸で処理した溶液をラットに摂取させると腺胃癌を誘発することが報告され、その反応溶液中からは新しい変異原物質2-chloro-4-methylthiobutanoic acid(CMBA)が同定された。この溶液中には、他に2種類の変異原の存在が明らかにされており、発がんへの関与が示唆されている。今回これら2つの未知変異原を単離し、構造解析を行った。 W.Chenらの方法に従い、皮と骨を取り除いたサンマのホモジネートに、塩化ナトリウムと亜硝酸を加えて酸性条件下で反応させた。遠心して沈殿物を除去した後上清を濃縮し、種々の有機溶媒を用いて変異原性化合物を抽出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製を行った。HPLCで分取した各フラクションの変異原性の検出には、ヒスチジン要求性サルモネラ菌株(Salmonella typhimurium TA1535)の復帰突然変異を指標としたエイムステストを用いた。 逆相カラムおよび弱アニオン交換カラムを用いたHPLCにより分離した2種類の変異原性化合物は非常に不安定で、繰り返しのHPLC分取によりその大半が分解して消失した。比較的安定な1種類の変異原物質については、^1H-NMR測定による構造解析を試みた。測定結果は、^1H-NMR(D_2O):δ0.84(doublet,2H),δ0.96(doublet,2H),δ1.62(doublet,5H),δ3.87(singlet,1H),δ4.40(quartet,2H)であり、現在構造解析を進めている。
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