サンマを酸性条件下で亜硝酸と塩化ナトリウムで処理した時、変異原物質2-chloro-4-methylthiobutanoic acid(CMBA)が生成するが、その作用機序はまだ明らかにされていない。突然変異誘発機構の1つとして、DNAを構成する塩基と変異原物質が反応してDNA付加体が生じ、その部位で誤った塩基対合が発生して突然変異を引き起こすことが知られている。本研究では、CMBAによる遺伝子突然変異誘発のメカニズムを明らかにするため、2'-deoxyguanosineとCMBAを反応させてDNA付加体の検出を試みた。 2'-Deoxyguanosine(15mM)とCMBA(5mM)は、リン酸ナトリウム緩衝液中で37℃、10日間反応させた。この反応液を逆相カラムを用いたHPLCで分離し、UV(250mm)検出器とエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析装置(ESI^+-MS/MS)で同時測定してDNA付加体の検出を行った。その結果、UV250nmに吸収を持ち、分子イオンピークがm/z 284である2種類の付加体が生成していることが明らかとなった。これらを分取カラムを用いて分離・精製し、NMR測定により構造解析を行った。^1H-NMR、^<13>C-NMR、HMQC、HMBCのデータからこの2種類の付加体は、N-7-(3-carboxy-3-methylthiopropyl)guanine、N-7-(1-carboxy-3-methylthiopropyl)guanineと同定された。DeoxyguanosineのN7位の付加体は不安定であるため脱塩基が引き起こされ、guanineのN7位の付加体として検出されたものと考えられる。CMBAによる突然変異は、DNA上に生成した付加体が原因となって生じた脱塩基部位に、誤った塩基が取り込まれることによって引き起こされると推察される。
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