研究概要 |
食習慣の欧米化に伴い、大腸がんが増加している。更に、エネルギー過多による肥満やそれに伴う糖尿病が増加し、深刻な社会問題となっている。適正な栄養摂取により、これらの疾病のリスクを下げる可能性が示唆されている。特に、最新の栄養調査で摂取不足率が大きかったビタミンB6の作用が注目されている。大規模な疫学調査と動物実験により、ビタミンB6には大腸がんや糖尿病合併症予防効果が示されている。 これまでの研究では、ビタミンB6に血管新生抑制作用があること、その作用機序としてDNAトポイソメラーゼ阻害作用が関与していることを明らかにしている。更に、血管新生には、幹細胞から分化してくる血管系細胞も関与していることから、マウス胚性幹細胞(ES細胞)を用いた血管発生モデルを用いてビタミンB6の作用を検討した。その結果、幹細胞からの血管形成も抑制することを明らかにした。一方、個体発生時に高濃度ビタミンB6暴露を受けると神経系に重篤な障害を受けることが報告されている。そこで、本研究では、発生時における高濃度ビタミンB6暴露の影響を検討する系として、マウス胚性幹細胞(ES細胞)を用いた神経発生・分化モデルの確立を試みた。 マウス胚性幹細胞(ES細胞)を用いて、神経細胞の分化誘導系の確立。 まず、ES細胞をハンギング・ドロップ法により培養して胚様体(embryoid body, EB)を形成させた。このEBをコラーゲン処理した培養プレートに移し、all-transレチノイン酸処理した。その後、培養を続け神経細胞を分化誘導した。神経細胞は、神経細胞特異的抗体を用いて染色し、その分化誘導効率を検討した。様々な濃度のレチノイン酸処理と培養条件設定で検討を試みたが、神経細胞の分化誘導効率は10-20%程度と低かった。この程度では、ビタミンB6の影響を調べるには適当ではなく、より効率的な分化誘導条件の確立が必要であると考えられる。 今後は、ES細胞からより効率的な神経細胞分化誘導系を確立し、神経細胞分化系へのビタミンB6の作用を検討したいと考えている。
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