研究概要 |
難消化性フラクトオリゴ糖(FOS)は、ラット大腸におけるカルシウム吸収を促進し、その促進効果に腸特異的カルシウム結合タンパク質であるカルビンデイン-D9kが関与していることを我々は既に報告している(Ohta A.et al., 1998. J Nutr 128:934-939)。本研究において、FOS摂取によるカルビンデイン-D9k遺伝子の変化は転写レベルによるものであることを証明し、さらに、カルビンデイン-D9k遺伝子のみでなく、FOS食により変動するすべての遺伝子発現についてcDNA発現アレイ法を用いて調べた。SD系雄ラットを10%FOS食で10日間飼育し、遺伝子発現をコントロール食群ラットと比較するため、結直腸より抽出した全mRNAをラットcDNA発現アレイフィルター(クロンテック社製、BD Atlas Rat cDNA expression array)で分析した。このアレイフィルターには588遺伝子が載っており、そのうちの195遺伝子にFOS食による遺伝子発現の変動が見られた。コントロール食群ラットより2倍以上発現を上昇させた遺伝子は6遺伝子であり、その中にはMapキナーゼ1やMaxのように細胞増殖を促進させる遺伝子が含まれており、1/2以下に発現が減少した20遺伝子の中には細胞増殖を抑制するソマトスタチンやプロヒビチンが含まれていた。これらの結果は、FOSが結直腸の細胞増殖を上昇させ重量増加が見られるという他の報告とも矛盾しないものであった。 多数の遺伝子調節が複雑に関与する栄養学の研究において、特に栄養成分の分子レベルの働きを研究する場合、このcDNAアレイ法が有効なツールとなることを今回の試みは示唆するものであった。
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