不溶性食物繊維がもたらす生理効果の作用機序として、消化吸収されない食物繊維の粒子が消化管内に存在することに伴う消化管内容物の物理的性状の変化が考えられる。つまり不溶性食物繊維を摂取することによって生じる消化管内容物のカサや粘度、保水性などの物理的性状の変化が、栄養素や消化酵素の拡散速度、消化管の形態に影響を与え、その結果が栄養素の消化吸収率低下といった機能の変化、つまり生理効果として現れていることが考えられる。 そこで本研究では、消化管内に存在する不溶性食物繊維の粒子が内容物の物理的性状に与える影響、それに伴う消化管の形態と機能の変化について調べることを目的とした。 平成15年度においては、不溶性食物繊維のモデル物質としてガラスビーズを用い、ラットによる動物実験によって、(1)消化管内容物の物理的性状(カサ)、(2)消化管の形態(組織重量・構造)に与える影響を調べた。 (1)消化管内容物の物理的性状 ビーズを1〜5%添加した飼料をラットに制限給餌した後、消化管内容物重量を測定した。その結果、胃・盲腸・結腸内容物の重量は対照群に比べてビーズ摂取群が重く、ビーズ摂取によって消化管内容物のカサが増加する傾向が認められた。 (2)消化管の形態に与える影響 消化管組織重量を測定した結果、結腸の組織重量がビーズ摂取に伴って増加する傾向がみられた。組織標本を作成し、デジタル顕微鏡像の画像処理によって粘膜層、粘膜下層、筋層の構成比を求め、各層の重量を推定した。その結果、結腸の粘膜がビーズ摂取によって増加している傾向がみられた。さらにPCNA免疫染色法により結腸の粘膜における増殖細胞数を測定した結果、ビーズの摂取量に伴って増殖細胞数の割合が増加していた。 以上の結果から、結腸においてはビーズ摂取に伴う消化管内容物のカサの増加が粘膜の細胞増殖を促進し、組織形態に影響を与えた可能性が示唆された。
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