研究概要 |
本研究は,森林科学を体系的に学習するための優れたツールである樹木年輪を用いて,樹木と森林に関する情報について,障害者そして健常者が分け隔てなく学ぶための教材を開発することと,教材を使用した野外教育の実践的研究をとおしてその教育効果について評価することを目的としている。本年度は以下の項目について研究を行った。 【触覚教材】の開発:昨年度(2003年度)に開発した触覚年輪体感キットについて,加工面の凹凸の形状を把握するために,レーザー光深度計測センサーを用いて年輪体感キットの加工面形状を計測した。その結果,サンドブラスターによる加工面の凹凸は樹種毎の年輪構造についてその解剖学的特徴を反映していることが裏付けられた。本結果は,2005年9月にイタリアで開催されるEurodendro(ヨーロッパ樹木年輪研究会)で発表する。次年度(2005年度)は,対象樹種を増やすことを目指し,さらにX線CTによる木材年輪構造の3次元データの取得とそのデータを用いた年輪構造拡大模型を作成し,触覚年輪体感キットを完成させる計画である。 【聴覚教材】の開発:本年度(2004年度)の課題であった聴覚教材のプロトタイプを開発した。本システムは,デジタルスチルカメラおよびフラットベッドスキャナーによる画像取り込み装置,年輪幅自動計測用画像解析ソフトウェア,年輪幅音源変換ソフトで構成される。結果として,年輪幅計測にいたるまでのシステムはほぼ完成したが,音源変換のシステムにまだ改良の余地が残った。本システムで作成した年輪幅音源は,2004年12月に筑波大学附属盲学校の高校2年生(全盲生7名,弱視生4名)を対象にした生物の授業で実際に教材として使用した。その結果,数百年にわたる年輪幅の広狭を点字・墨字グラフ等に頼ることなく,把握できたかについては,把握できた生徒と広狭と違いと音程の対応がとれないために混乱した生徒とに別れた。次年度(2005年度)は,音源変換の方法を改良するとともに,教材として用いる際の手法について検討を加える。なお,本年度の授業の結果については全国視覚障害理科教育研究会誌に投稿する。 野外学習会の実施:本年度(2004年度)は,昨年度に引き続き,視覚障害者向け野外体験講座として,「樹木ソムリエ養成講座」(8月21日)を実施し,アンケート,静止画・動画による観察記録を元にその効果を解析した。本年度は,これまで共同で企画を実施してきた団体に加えて,一般からも広く募集し,実施内容の是非についてより多くの確証を得た。なお,2003年に実施した企画の成果については2004年7月に開催された全国視覚障害理科教育研究会で発表した。また,2003年度2004年度に実施した内容を,同研究会会報誌に投稿する予定である。
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