研究概要 |
(1)ブラジルにおけるウジミナスを含む政府系主要鉄鋼メーカー5社は近代的な製鉄所の基本を押さえた設備構成であったからこそ,1980年代末から90年代初めに行われたリストラクチャリングに成功したと考えられる。この点で,そうした生産体系・設備構成の基本が形成された1970年代から80年代始めにかけての大規模設備投資は,資金調達には問題があったが,ある程度合理的な技術選択がなされているものと考えられる。ブラジル鉄鋼業にとっての技術選択は,日本をはじめとする海外からの技術導入を主として意味するから,技術導入がある程度成功したことを示している。 (2)一般に発展途上国の産業が競争力を持ちうる製品はスケールメリットを生かした大ロット品(量産品)である。政府系鉄鋼企業が国際競争力を有するホットコイルは大量かつ大ロットの需要を背景とする現在の鉄鋼業の基軸品種であり,まさにその量産品に他ならない。しかも,ウジミナスを含む政府系主要鉄鋼メーカー5社は,主としてこのホットコイルを含む普通鋼・鋼板の生産にその資源を集中し,多くの製鉄所でホットコイルを生産するホットストリップミルを中心に据えた圧延工程を有してきた。だが,鋼板の生産に特化してきたのは,工業化を支えた「三つの脚」企業体制の下で国内の自動車産業などの製造業に鋼板を供給する役割を政府系企業が担ってきたからに他ならない。政府系鉄鋼企業は鋼板に特化させられてきたからこそ,一定の国際競争力を持ちえたと考えられる。 (3)民営化後10年間におけるブラジル鉄鋼業の変容を鉄鋼統計によって追跡した結果,投資面と生産面においても,鉄鋼業における企業間関係の再編成においても,自動車産業への亜鉛メッキ鋼板を中心とする銅板供給に重点が置かれていることがわかる。このことは自動車産業と結びつくことで成長を図った「ブラジルの奇跡」時代を彷彿とさせるものだけに,自動車産業に対する鉄鋼業とのバーゲニングパワーが問われている。
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